『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』 細野真宏 |
~世界一わかりやすい経済の本~ 細野真宏
友人がレビューしていたので、釣られて自分も読んでみた。
世の中の情報を、その見出しだけで理解したと思わないで、その裏にある、そこに至るまでの過程もたどった上で情報の本質を理解すべき、というような本。
副題の「~世界一わかりやすい経済の本~」というのは、ちょっとどうかな、と思う。
というのも終始一貫する基本的な内容は、「数学的思考力」に関して。
その応用例としてこの本では経済であり、大きくは「サブプライムローン問題」と「年金問題」について解説しているだけなので・・・
自分の手の及ぶ、という視点での「マクロ的経済」と「ミクロ的経済」のそれぞれ代表を解説しているのかもしれない。
年金については、徹底的にあやふやな情報に常日頃さらされているので、いろいろとためになる。
特に、気になり書き留めておきたいのが、副題に関する核心部と、あとがきの一部。
厚生年金加入者など(第2号被保険者)やその配偶者(第3号被保険者)も含む国民年金全加入者(7012万人)の中で、未納者308万人は5%にも満たない。(平成19年度末)
しかし、マスコミに公表される「未納者およそ40%」というのは、自営業などの第1号被保険者のみを分母とし(2035万人)、なおかつ分子に免除者や猶予者など(518万人)も合わせて40%としている。
全体に対してもともと少ない分子中で割合が変動しても、全体に与える影響は「破綻」に結び付くものではない。
というような内容。
実際はもっといろいろあるのだが、この部分が、最近大騒ぎしている温室効果ガス25%削減時の一般家庭の負担と非常に共通して思えるのだ。
ニュース番組などは一般家庭をターゲットとしているので、そこの危機感をあおりたいのだろうが、とにかくここ数日の報道は「各家庭の年間負担額38万円」をひたすらクローズアップし、一般人に「ムリです(^^;」と言わせ続けている。
「一般家庭の皆さん、こんなのムリでしょ? 企業はもっとムリですわ(^^;」と刷り込もうというのか?
そもそも一般家庭から排出されるCO2は国内総排出量の4.8%だ。(直接排出量)
「電気事業者の発電に伴う排出量を電力消費量に応じて最終需要部門に配分した後の値」という間接排出量にして13.8%。(ちなみに産業は直接:29.7%、間接:36.1%)
(2007年度のデータ。数値の出典:国立環境研究所温室効ガスインベントリオフィスウェブページ)
しかも、たくさんの照明器具、冷暖房器具を惜しげなく使う裕福な家庭と、つつましく明かりを節約し、我慢できる限り冷暖房も節約している家庭とあった場合、どちらも一律38万円を負担することになるのか?
今までまったく節約に無頓着な家庭であれば、意識的に25%の削減(省エネ)は可能とすら思える。
とにかく何から何まで一律25%削減、しかも全家庭38万円/年、ソーラーパネル設置、断熱壁導入、というのは首をかしげる内容で、どうにも納得できないと思っているタイミングでこの本を読んだ(^^;
数字、データはとても意図的に使われている・・・
そして結局、最近の自分が、最も共感できるのがあとがきのこの部分。
「通常の”バイアス(歪み)”が多く混じっている「純度の低い情報」の場合は、”バイアス(歪み)”を取り除く作業にかなりの手間と時間がかかってしまうのです。」
年金、税金、環境問題、何から何まで、ちょっと気になって調べだすと、この壁にぶち当たる。
しかも厄介なのは、世の中の多くの人はその断片的(場合によっては意図的操作を受けている)情報に基づいて意思決定しているということだ、、、
この本(きっと著者の別の本もそうだろうが)は、それが問題であると教えようとするものだ。
もっとも、たとえ真実を伝えようと思っても、情報を端折ったとたんに結果は同じものになるのかもしれない。
どれほどの賢人をもってしても、歪みのない情報を完全な形で渡すことには、未だかつて成功していないのかもしれない。言葉で伝えようとする限りは・・・