『リーダーになる [増補改訂版]』 ウォレン・ベニス |
序盤は2002年当時の、アメリカの荒んだ状況と危機感がかなりのボリュームで説明されているが、現在の日本が遅れてその状況に突入しているのが良く分かる。
内容はやはり「7つの習慣」などとかなりダブっているが、それ以上に実は自分ではどうにもできないこと、スピリチュアルっぽいところへ突っ込んでいるのが気に入って、こんな自分でも読み終えることができた。
自己啓発ノウハウ本としては、とても受け入れるのが難しいようなことがいくつか書かれているが、最近どうにも同様のことが太古の昔より、色々な分野で垣根を越えて繰り返し唱えられているということが目に付いて仕方ない。
普遍的な、しかし実証の難しい「真理」というものの存在を確信しつつある。
まぁそんなことを確信することができたらそれを、「悟りを開いた」と言うのだろうが。
かなり飛躍するが、とりあえず「暗黒物質」と「暗黒エネルギー」の解析がなされるのを期待して待ちたい・・・
以下、この本の気になったところの抜粋。
■序章より
・「試練」という経験
リーダーシップが生まれる前には必ずなんらかの節目となるできごと、とくにストレスに満ちたできごとが起きる。
人がリーダーになる過程では、試練が魔法のような役目を果たす。
■「第一章 現状を打破する」より
・ノーマン・リアのことば
「エスマンは内なる声に耳をかたむけ、他のすべてが反対しようともそれに従えといっています。
いつごろからかわかりませんが、私は内なる声には神の意志のようなものが宿っていると理解するようになりました・・・ 内なる声に従うこと--正直、常にそうできているとはいえませんが、そうできたとしたら、これほど純粋で真理に近い行為はないのではないでしょうか。それに、自分の考えや意見というのは、手放せば必ず他人の口を借りて自分のもとへ返ってくるものです。ふしぎな威厳をたたえて・・・。
ですから、とにかく信じることです。私の場合も、一番力を発揮できたのは、内なる声に耳をかたむけていたときでした」(※)
■「第二章 基本を理解する」より
・生まれたままのリーダーと、生まれなおすリーダー
生まれたままのリーダーは、それほど苦労せずに家庭や家族を離れ、自立の道を歩みだす。それに対して生まれなおすリーダーは、成長の過程で苦しむことが多い。世間に違和感を覚え、孤立感をいだくことさえある。
そのため、彼らは内面に非常に複雑な世界をつくりあげる。しかし歳を重ねるごとに、彼らは本当の意味での自立を手に入れ、自分の信条と思想にもとづいて生きるようになる。
ザレズニック教授によれば、生まれなおすリーダーは内面の価値観を重んじ、自分自身を信頼しているため、きわめてカリスマ的な性格を持つという。
■「第四章 世界を知る」より
・友人と師を持つ
ジェイミー・ラスキンは、触発された人は誰かと尋ねられて次のように答えている。
「知人であれ、歴史上の人物であれ、私がもっとも尊敬するのはなんの関係もないように見えるものをつなぎあわせて考えることのできる人です。
とくにあこがれていたのはマーティン・ルーサー・キング。子どものころに彼の著作を読み、とても大きな影響を受けました。彼は、すべての生命はつながっていて、すべての人間はひとつの大きな流れの中にあり、同胞を傷つけることは自分を傷つけることに等しいといいました。
リーダーシップというのは、人類はもちろん、社会のあらゆる部分につながっていて、すべては同じ方向に進んでいるのだと見抜くことだと思います。(以下略)」
■「第五章 直感に従う」より
・リーダーと「天与の衝動」
(上の(※)に内容はつながるノーマン・リアのことば。)
「第二幕の脚本が上手く書けなくて、頭を抱えながらベッドに入り、目が覚めたらその答えを思いついている--こんなことが1000回も起きるのはなぜでしょうか。それは内なる声を聞いているからです。」
アップルのジョン・スカリーは、意見の相違を歓迎している。その姿勢は、市場調査のやり方にもおよぶ。
「最悪なのは自分と同じ考えの人間を集めてチームをつくることです。でも、本当に必要なのは異なるスキルの持ち主が相互に連携できるようなチームです。リーダーなら、異なる人間やものごとを連携させる方法を考えるべきでしょう。
人間はえてして、自分が何を求めているのかをわかっていないものです。実際に目で見るまでは、言葉でいいあらわせないんですね。もしマッキントッシュを世に出す前に市場調査をして、消費者に理想のPCはどんなものかと聞いていたら、まったく違う製品ができあがっていたでしょう。しかし、我々はマッキントッシュを世に出し、『あなたが欲しかったものはこれではありませんか』と問いかけた。消費者の答えは『イエス』でした。抽象的なものは目に見える形にしなければなりません。そうでなければ、人々はそれを受け入れることも拒否することもできないのです」
■「第六章 自分を広げる」より
劇作家のアソル・フガードは、毎朝、自分によろこびを与えてくれるものを10個考えることで、うつから脱することができたという。これは、一日をおだやかで前向きな気分で始めるためのすばらしい方法だと思う。
ささいな失敗に気づいたときは、それについてあれこれと思い悩むより、自分の身近にあるささやかなよろこびに意識を向けるほうがはるかによい。落ち込んでいるときは自分が楽しみに思っていることを考え、心に余裕ができてから起きたことを反芻するのだ。
■「第七章 混乱をくぐり抜ける」より
1817年、詩人のジョン・キーツは、弟たちにあてた手紙の中で、真の偉業を達成するには「消極的な受容能力」が欠かせないと書いた。彼はこの能力を「不確かさ、謎、疑いのただ中にあっても、性急に事実や原因をとらえようとせず、その中にとどまっていることのできる能力」と説明している。現代のリーダーの定義として、これにまさるものはないだろう。
・やっかいな上司、悪い上司
バーバラ・コーディのことば
「(略)-この経験から、自分のライフスタイルや私生活を部下に押しつけてはならないということを学びました。-(略)-この業界で私の名前が少しは知られるようになったとすれば、それは過去に一緒に仕事をした人たちが、また一緒に働きたいと思ってくれるからではないでしょうか」
■「第八章 人を味方につける」より
ドン・リッチーのことば
「仕事をしていて、もっともやる気が湧いてくるのは、仕事仲間、とくに上司が、自分の存在だけでなく、自分がしていることを熟知していて、毎日のようにかかわってくれるときです。自分と上司はパートナーで、力を合わせていい仕事をしようとしている--そう思えるとき、あるいは問題が起きても犯人探しをするのではなく、解決策を探ろうという雰囲気があるとき、社員は奮起するのだと思います」
マックス・デプリーの著書『リーダーシップはアートである』より
「どんな組織でも、最高の人材はボランティアに似ている。どこに行っても引く手あまたの彼らは、給料や肩書きといったものでは動かない。ボランティアに必要なのは契約ではなく誓約だ。-(略)-
誓約にもとづく関係は、人々を束縛するのではなく自由にする。アイディア、課題、価値観、目標、管理のプロセスは共有され、行動の規範となる。このような関係には、愛情、思いやり、意気投合といった言葉が似あう。誓約にもとづく関係は-(略)-人間の奥底にあるニーズを満たし、仕事を有意義で充実感あふれるものにしてくれる」
・「短期的思考」を脱し「誠実さ」を求める
今日のリーダーが直面している大きな試練といえば、企業による不正行為の蔓延だろう。それは企業の不祥事が毎日のように報じられていることからも明らかだ。組織を束ねる人間に、誠実さも確固とした倫理観もないと感じたとき、人は組織への信頼を失う。
1980年代末にピッツバーグ大学のウィリアム・フレデリックが行った古典的な研究では、皮肉にも倫理規定を定めている企業のほうが、定めていない企業よりも当局に出頭を求められることが多いことが明らかになった。なぜか。企業の倫理規定はあくまでもバランスシートを改善するために設けられていることが多いからだ。
企業倫理の低下を招いたものは、利益至上主義にほかならない。ノーマン・リアは、この手の思考を次のように糾弾する。「文化に大きな影響を与えるものは、時代によって変わります。それは教会だったこともあれば、学校や家庭だったこともある。でも、現在の文化にもっとも大きな影響を与えているものはビジネスでしょう。ビジネス特有の短期的思考は、文化のあらゆる側面に大きな影響をおよぼしています。このような思考が現代社会を動かし、子どもたちに人生は勝つか負けるかだと信じこませようとしているのです。-(略)-短期的思考こそ、現代社会の病理です」
ドン・リッチーのことば
「人間というのは、基本的には倫理的でありたいと願っているのではないでしょうか。黄金律の哲学というのかな、自分がそうしてほしいと思うことを人にもすることが大切なんです。
あのリーダーは口先ではなく、本心からものをいっていて、しかも言葉どおりに行動している--そう信じることができれば、日和見的な態度をとる人はいなくなります。そんな態度をとるのは、一方では倫理的な行動を求め、他方では策略をめぐらし、ずるがしこく立ちまわることを求めている人がいるからです。(以下略)」
■「第十章 未来をつくる」より
自分を否定するより、自分を表現するほうがはるかにたやすい。そして、自分を表現することでもたらされる実りは、自分を否定することでもたらされる実りよりもはるかに大きい。
以上。
また、第七章には、1980年代初頭にジョンソン&ジョンソンの大きな危機を、強力なリーダーシップで脱したジェームズ・バーグの話がある。
この話から思い出す好対応はジャパネットたかた、そしてこれらと対比してしまうのが現在のトヨタ問題だ。
とにかく自分と社会の「今ここにある危機」を再確認し、脱するヒントを得ることができる。